「自己破産は借金がいくらからできるのか」——この疑問を抱えながら、インターネットで情報を探している方は少なくありません。本記事では、借金額の基準に関する誤解を解くところから始め、最新の統計データと実務の観点から、自分の借金額に合った手続き選択の考え方をお伝えします。
自己破産は「借金がいくらから」できるのか——よくある誤解
自己破産について調べると、「数千万円の借金がないとできない」「○○万円以上でないと申請できない」という情報を目にすることがあります。これは事実ではありません。
破産法には、申立てに必要な借金額の最低基準が定められていません。法律の条文をいくら読んでも、「借金が○○万円以上であること」という要件は存在しないのです。
では、なぜ「30万円以上」という目安が一部で語られるのでしょうか。これは法律の要件ではなく、弁護士費用との兼ね合いから来る実務上の感覚です。弁護士に依頼する費用(一般的に30〜50万円程度)を支払って手続きを進めることを考えると、借金総額が弁護士費用を下回るほど少額の場合は、費用対効果の観点から他の方法を検討したほうが現実的な場合がある、という話です。
金額ではなく「支払不能」かどうかが基準
自己破産ができるかどうかの法律上の判断基準は、借金の総額ではなく「支払不能かどうか」です。支払不能とは、収入や財産では借金を返済できない状態を指します(破産法第2条第11項)。
たとえば、借金が100万円しかなくても、収入がなく財産もない状態であれば支払不能に該当します。逆に、借金が1,000万円あっても、高収入で資産も十分にあれば支払不能とはみなされません。「借金が多い・少ない」ではなく、「返済できる状態にあるかどうか」が判断の出発点です。
結論——自己破産する人の借金額の実態(日弁連2023年調査)
「自己破産をするのは、数千万円の借金を抱えた人だけ」というイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし、最新データはそのイメージとは大きく異なります。
日弁連「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、自己破産申立人の平均負債額は1,084万円(2023年)です。過去の推移を見ると、2011年時点では3,000万円を超えていた平均値が、2014年約2,414万円、2017年約1,975万円、2020年約1,449万円と段階的に低下し、2023年には1,084万円まで下がっています。自己破産をする人の借金額は、年々「少額化」の傾向をたどっています。
さらに重要なのは負債額の分布です。同調査における2023年の数字を示します。
| 負債額 | 割合 |
|---|---|
| 100万円未満 | 10.46% |
| 100〜200万円未満 | 16.38%(最多) |
| 200〜300万円未満 | 13.46% |
| 300〜400万円未満 | 10.71% |
| 400〜500万円未満 | 8.52% |
| 500〜600万円未満 | 6.33% |
| 600〜700万円未満 | 4.62% |
| 700〜1,000万円未満 | 9.16% |
| 1,000〜2,000万円未満 | 9.73% |
| 2,000万円以上 | 約10% |
この表から、500万円未満が全体の約59%(約6割)を占めていることがわかります。また、1,000万円未満で見ると全体の約80%に達します。自己破産は「高額な借金を抱えた一部の人がする手続き」ではなく、100〜300万円台が中心層なのです。
男女別の傾向にも違いがあります。女性は100〜200万円未満の層が20.04%と最多で、低額帯の割合が相対的に多くなっています。男性は1,000〜2,000万円未満が11.93%と、女性(6.68%)より高い割合を示しています。
個人再生をする人の借金額の実態
同調査によると、個人再生申立人の平均負債額は自己破産より高く、500〜1,500万円の層が中心です。これは、個人再生を選ぶ方の多くが「財産(特に自宅)を守りたい」「住宅ローンを継続したい」という動機で手続きを選ぶためです。住宅ローン特則を利用する場合、住宅ローン残高が総負債額に加算されるため、自己破産申立人より負債総額が大きくなる傾向があります。
自己破産よりも借金額が多い層が多いとはいえ、個人再生にも借金額の下限は法律上定められていません。最終的な選択は、借金額だけでなく収入の安定性・資産の有無・家族構成などを総合的に判断して行います。
現場で見てきた「借金額別・手続き選択」の傾向
法律の条文やデータだけでは見えにくい、実務的な感覚についてお伝えします。債務整理事務所での相談対応を通じて感じてきた、借金額ごとの傾向です。
〜300万円以下の場合
この層では、任意整理で対応できるケースが多いという印象があります。収入があり、相手方の貸金業者が少数であれば、利息のカットや返済計画の見直しで月々の負担を現実的な水準に落とせることがあります。
ただし、収入がほとんどなく、すでに返済が完全に止まっている場合は、任意整理では解決しきれないことがあります。借金が少額であっても「支払不能」に該当するなら、自己破産を検討する意味があります。金額の大小で「まだ大丈夫」と判断せず、返済できているかどうかを基準に考えることが重要です。
300万〜1,000万円の場合
この層は、自己破産か個人再生かで迷う相談が最も多かった層です。どちらを選ぶかの判断軸は主に以下の点になります。
- 財産の有無:まとまった資産(不動産・車・保険解約返戻金など)を持っている場合、自己破産では処分が求められる可能性があります。財産を残したい場合は個人再生が選択肢になります。
- 職業上の制限:自己破産には手続き中の就業制限があります(弁護士・司法書士・警備員など一部職種)。該当する職種に就いている方にとっては、個人再生が現実的な場合があります。
- 住宅ローンの有無:住宅ローンが残っている場合、個人再生の住宅ローン特則を使えば自宅を維持したまま他の借金を圧縮できる可能性があります。
1,000万円以上の場合
この層では、個人再生(住宅ローン特則)か自己破産かの選択が主な論点になります。個人再生で借金を圧縮するには、再生計画に沿った返済を3〜5年間続けられる安定した収入が必要です。収入が不安定だったり、個人再生の返済額でも生活が成り立たない場合は、自己破産を選択することになります。
借金額から手続きを選ぶ判断軸
借金額は手続き選択の「入口」に過ぎません。最終的には、収入・財産・職業・家族状況・借入先の数など複数の要素を組み合わせて判断します。
任意整理が向いているケース
- 借金総額の目安:おおむね300万円以下(ただし収入次第で変わります)
- 安定した収入があり、利息をカットすれば返済できる見込みがある
- 特定の貸金業者だけを整理したい(例:カードローンだけ整理し、銀行ローンはそのまま続けたい)
- 信用情報への影響を最小限にとどめたい
詳しくは任意整理の流れと費用について解説した記事をご覧ください。
個人再生が向いているケース
- 借金総額の目安:おおむね300万〜5,000万円(法定上限)
- 安定した収入があり、圧縮後の借金を3〜5年で返済できる
- 自宅を手放したくない、住宅ローンを継続したい
- 職業上、自己破産の就業制限を避けたい
詳しくは個人再生の仕組みと住宅ローン特則について解説した記事をご覧ください。
自己破産が向いているケース
- 収入がない、または収入があっても返済できない状態(支払不能)
- 借金額・借入先の数が多く、任意整理や個人再生では解決が難しい
- 財産がない、または処分してもよい
- 職業上の制限に該当しない
手続きを選んで動いた後にどうなるか
手続きが確定すれば、毎月の返済額が変わり、生活の見通しが立ちます。「今月どうやって返済するか」という毎月の綱渡りが終わり、家計を立て直す計画が具体的に描けるようになります。
振り返ってみると、相談に来られた方の多くが悩んでいたのは「借金がいくらあるか」ではなく「今月いくら返済できるか」という現実的な問題でした。借金額の大小で「自分はまだ大丈夫」「もう手遅れかもしれない」と判断してしまうと、適切な対処が遅れることがあります。
重要なのは、借金が少ないうちに選択肢が広いということです。早い段階で専門家に現状を確認してもらうことで、任意整理・個人再生・自己破産の3つの選択肢の中から、自分の状況に合った方法を落ち着いて選べます。追い詰められてから動くより、選択肢がある状態で動くほうが、結果として有利なことが多いです。
まず現状を整理することから——弁護士への相談
「自分の借金額で何ができるのか」を確認する最短の方法は、専門家に直接聞くことです。弁護士や司法書士に状況を伝えれば、どの手続きが自分に向いているか、費用はどれくらいかかるか、手続き後の生活はどう変わるかを具体的に示してもらえます。
多くの法律事務所・法務事務所では初回相談を無料で受け付けています。「まだ相談するほどではないかもしれない」と思う方もいるかもしれませんが、情報収集の段階での相談でも丁寧に対応してもらえます。借金額が少なくても、多くても、今の状況を正確に把握することが解決への第一歩です。
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